在留資格「特定技能」とは、2019年4月から導入が予定されている新しい在留資格で、深刻な人手不足と認められた14の業種に、外国人の就労が解禁されます。
その14の業種とは、①建設業、②造船・舶用工業、③自動車整備業、④航空業、⑤宿泊業、⑥介護、⑦ビルクリーニング、⑧農業、⑨漁業、⑩飲食料品製造業、⑪外食業、⑫素形材産業、⑬産業機械製造業、⑭電気電子情報関連産業です。
これらの業界での仕事は単純労働を含んでいるため、これまでは外国人が行うことはできませんでしたが、昨今の少子高齢化の影響が深刻で、このままでは業界そのものが立ち行かなくなることから、外国人労働者を受け入れることとなりました。
この問いに答えるには、「移民」の定義が一義的である必要がありますが、「移民」という言葉は日常用語ないし政治学用語であって法律用語ではないため、万人が認める共通の定義はありません。したがって、単純な「移民政策なのか否か」という問いには、ほとんど意味はありません。
日本の国内法には移民の定義はなく、国際的に合意された定義も存在しませんが、最も引用されている定義は国連の「国連事務総長報告書(1997年)」に記載されているもので、「通常の居住地以外の国に移動し、少なくとも12ヶ月間当該国に居住する人のこと(長期の移民)」とされています。
この定義からすれば、日本の就労ビザはこれまでも1年以上の在留期間を与えていましたので、すでに移民を受け入れてきたこととなります。今回の入管法改正は、その範囲が拡大される政策という評価になるでしょう。
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特定技能1号とは、即戦力となる人材を受け入れるための受け皿で、通算で5年間、上記の業種において就労することができます。
通算5年の日本滞在では通常は永住の要件を満たすことはできませんので、雇用契約の満了後は本国へ帰国することとなります。
つまり即戦力かつ期間限定の戦力であるということになります。
特定技能1号で来日するためには、その前に日本語能力に加え、仕事に関する知識・経験についての試験に合格することが必要です。
特定技能1号は就労ビザの1つなので理論的には外国人労働者の国籍を問いませんが、上述の試験をすべての国で行うわけではなく、 当初は各業界ごとに試験実施国は数か国に留まることが予想されており、事実上、外国人労働者の国籍は限られたものになります。
農業の場合は、7か国で試験が実施される方向で検討されています。
特定技能2号は、基本的には特定技能1号の修了者がその次のステップとして進む在留資格で、熟練レベルの能力をもつ人材の確保を目的としています。
現在は特定技能1号が認められる14業種のうち、建設と造船の二業種だけが対象となる予定で、しかも改正入管法施行後の数年間は、 二業種で働く外国人を含め誰にも許可されない予定ということです。
在留資格「特定技能2号」の取得者は期間更新に制限がなく、永住の要件である日本滞在10年の要件をクリアする可能性が出てきます。
在留資格 特定技能
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技能実習とは、外国人の方に日本の進んだ産業技術を身につけていただき、本国でそのスキルを活用して産業発展に役立てていただくことを目的としており、「国際貢献」を主目的とした制度です。技能実習において労働は、スキル獲得の「手段」であって、「目的」ではありません。
いっぽう在留資格「特定技能」は、人材不足の産業に即戦力となる労働力を提供するための制度なので、労働を主たる「目的」としています。
外国人労働者は事前に試験に合格する必要はあるものの、スキームは会社と労働者の2当事者でありシンプルで使い勝手が良いです。
技能実習は受入会社と労働者の他にも、送出し機関、事業協同組合、外国人技能実習機構が関与する複雑なスキームで、かつ、事業協同組合の設立も大変ハードルが高いので、今後は徐々に、特定技能ビザで海外から直接労働者を招聘することがメジャーになるはずです。
6.1.移行できる職種と移行することができない職種
2018年12月28日現在、技能実習2号移行対象職種として認められているものは、全産業分野で80職種144作業です。このうち、すべての職種・作業が特定技能1号の分野として指定されているわけではありません。つまり現行の技能実習修了者の中でも、試験免除で特定技能1号に移行できる方と移行できない方が存在します。
これは国際貢献として技術移転が求められている職種・作業と、日本で深刻な人手不足が生じている技能分野とが完全に一致しているわけではないことから生じており、ある意味当然のこととも言えるでしょう。 例えば建設分野におけるトンネル推進工、土工、電気通信、鉄筋継手の4分野は、技能実習2号の移行対象職種ではありませんが、日本で深刻な人手不足が生じているため、特定技能ビザの対象とされています。
6.2.技能実習1号から特定技能1号への移行することの可能性
技能実習2号移行対象職種ではないため技能実習1号が終了すると帰国される方はもともといらっしゃいます。そうした方々が帰国後に本国で技能試験を受験して、合格者が在留資格認定証明書交付申請の方法で再来日する方法は理論上は可能なはずです。しかしながら、「上陸基準省令」が特定技能2号についてのみ「技能実習の在留資格をもって本邦に在留していたことがある者にあっては、当該在留資格に基づく活動により本邦において修得、習熟又は熟達した技能等の本国への移転に努めるものと認められること。」を要求し、これを受けて参考様式1-10号「技能移転に係る申告書」も技能実習2号修了者のみを対象としている(「提出書類一覧」参照)ことからすると、法務省は技能実習1号修了者の「国外技能試験合格・再入国ルート」を想定していない可能性があります。
なお法務省入国管理局策定の「試験方針」は特定技能試験の受験資格について、「技能実習等,当該活動を実施するに当たっての計画(以下「活動計画」という。)の作成が求められる在留資格で現に活動中の者(その活動計画の性格上,他の在留資格への変更が予定されていないもの,又はその活動計画により,当該活動終了後に特定の在留資格への変更又は在留期間の更新が予定されているもの)については,国内での受験資格を認めない。」としています。
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特定技能1号による外国人の就労者としての受け入れは14業種で行なわれる予定ですが、この14業種は2つの切り口から4つにグルーピングすることができます。
一つ目は、業界マトリクスの【Ⅰ】で、造船業、建設業(7職種)がこれに該たります。「技能実習からの(from)移行」と「特定技能2号への(to)移行」の両方が認められるグループです。
二つ目は、業界マトリクスの【Ⅱ】のグループで、介護、農業、外食業(医療福祉給食)など14業種の多くがこれに該たります。「技能実習からの(from)移行」は認められるが「特定技能2号への(to)移行」は認められないグループです。
三つ目は、業界マトリクスの【Ⅲ】のグループで、「技能実習からの(from)移行」は認められないが「特定技能2号への(to)移行」は認められるグループです。2019年4月の制度導入当初は、建設業の土工など4職種がこれに該たります。
四つ目は、業界マトリクスの【Ⅳ】のグループで、宿泊産業、外食業(医療福祉給食以外)がこれに該たります。「技能実習からの(from)移行」と「特定技能2号への(to)移行」の両方が認められないグループです。
これらのグループは、相互に技能実習と特定技能2号との関係が異なることから、異なるグループに属する業界は、特定技能ビザを異なる方法で活用するようになります。
以下、各グループを代表して、建設、農業、宿泊、外食の4業種を取り上げ、特定技能ビ
8.1. 総説
建設業界においては、①近年の建設投資の減少によって建設会社の経営が悪化するなどしたことにより建設技能労働者の離職が進んだこと、②団塊の世代など建設技能労働者の高齢化が進み、高齢者が定年などにより仕事を辞めていること、③建設業界の給与面や待遇などの改善が進んでいないことから、若年層が就職を避けるようになっていること、という3つの要因により、深刻な人手不足に陥っています。
このような建設業界の構造的な人手不足に加えて、2020年までは東京オリンピック・パラリンピックの関連施設の短期的な建設需要があります。
オリンピック関連の緊急の労働力不足に対応するため、政府は建設分野の技能実習を終了した外国人を、在留資格「特定活動」で引き続き国内での仕事に従事することを可能にする措置をとってきました(この措置は2019年4月以降、特定技能1号に移行して終了予定)。
今般、2019年4月に在留資格「特定技能」という新しい在留資格を導入し、人手不足の状況にある建設業界を含めた14業種に対して外国人の就労が解禁される予定です。在留資格「特定技能」は就労ビザであることから、技能実習を経なくても、雇用契約を結べば即戦力として直接海外から招聘することができます。技能実習生は15か国からの受入に限定されていましたが、特定技能1号は国籍を問わない点が特筆に値します(ただし、試験実施国の関係で理論上ではなく事実上の制約あり。)。
これまで大企業でない限り事業協同組合を通じてしか技能実習生を受け入れることができず、その後の在留資格「特定活動」も技能実習の修了者しか資格がありませんでしたが、今後は建設労働者の受け入れに、これまでとは比べものにならないほど使い勝手の良いルートが設けられることとなりました。
現在技能実習生を受け入れている企業はもとより、技能実習のスキームそのものが面倒であったり国籍が限定されていることなどが理由でこれまで受け入れに躊躇してきた企業からも熱い視線が注がれており、東京のアルファサポート行政書士事務所にも多くのご依頼のご相談が寄せられています。
8.2. 技能実習からの移行による特定技能ビザの活用
特定技能 在留資格
©アルファサポート行政書士事務所作成、無断利用、転載を禁ずる 特定技能1号の導入後数年間は、技能実習からの移行組が特定技能ビザ保有者の多くを占めるとみられています。特定技能1号はあたらしい在留資格なので、新規に海外から招聘される人数は、技能実習から移行する人数よりも、当初は少なくなる見込みです。しかしながら長期のスパンでみると、まず技能実習生として受け入れてその後特定技能へと移行するグループよりも、海外から直接招聘されるグループの方が多数派となるでしょう。技能実習はそもそも就労を本来の目的としておらず「国際貢献」のためのスキームであり、雇用主と従業員以外に事業協同組合や外国人技能実習機構など多くの当事者が関与するので受入企業にとっては使い勝手が悪いからです。
なお、建設分野の技能実習2号移行対象職種のすべてについて、特定技能1号に受け皿があるわけではないことにご注意ください。
8.3. 海外からの直接招聘による特定技能ビザの活用
特定技能 在留資格
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海外から建設労働者を直接招へいするためには、その労働者が特定技能試験に合格をする必要があります。政府は、建設分野の技能実習生の受入実績をみながら、この試験の実施国を選定する予定です。そうすると、就労ビザである特定技能ビザは、理論的には労働者の国籍を問わないはずですが、事実上は、10か国に満たない試験実施国から招聘することになる可能性があります。
9.1. 深刻な農業における人手不足と高齢化
農林水産省の統計によれば、基幹的農業従事者の数は劇的に減少をしていて、2010年に205万人であったものが、4年後の2014年には37万人も減少し168万人となっています。わずか4年で2010年の基幹的農業従事者の18%が失われた計算です。
高齢化も深刻で、農業従事者のうち40代以下の占める割合はわずか14%で、50代以上の農業従事者が全体の86%を占めています。
この傾向は今後も拍車をかけて進んでいくものとみられており、農業の担い手の確保が喫緊の課題となっています。
政府の試算では、農業分野における特定技能1号ビザの取得者を初年度で7300人と見込んでいて、14業種の中で最多になる見込みです。
9.2. 特定技能2号が認められていない農業
農業は、特定技能1号の対象となりましたが、特定技能1号は日本での就労が通算5年に限定されています。したがって、他の就労ビザのように、外国人を長期にわたって例えば定年まで雇用するようなことはできませんので、外国人労働者がどんなに優秀であっても、「後継者」になってもらうことはできません。あくまでも日本人である就業者のサポート役にとどまります。
もし今後、農業が在留資格「特定技能2号」の対象になれば、2号は滞在に期限がありませんから、同じ外国人を長期にわたり雇用し後継者にすることもできますが、現在のところ2号の対象は建設業と造船業の二業種にとどまる予定で、農業は含まれていません。
9.3. 就労ビザとしての特定技能を申請する際の農業特有の事情
技能実習ビザは各農家ではなく事業協同組合が入国管理局に対し申請しますが、特定技能ビザは各農家が個別に入国管理局に申請をすることとなります。この場合、技能実習ビザにおいては事業協同組合の財務諸表の中身が問われるのに対して、特定技能ビザの場合は、各農家の経営状況が審査対象となります。したがって、零細の農家さんでは、入国管理局の審査に耐えられないケースがあるかもしれません。2010年において、法人である農業経営体数が全農業経営体に占める割合は1%に過ぎませんので、大半は個人事業主として特定技能ビザを申請することとなります。
特定技能ビザに限らず一般に、就労ビザは個人事業主よりも法人の方が審査は通りやすいので、比較的慎重な申請が求められる業界となるでしょう。
9.4. 農業技能実習から特定技能ビザへの移行
2018年11月現在、農業は「耕種農業」と「畜産農業」とが技能実習の対象となっています。そして、この技能実習の修了者は、「耕種農業」「畜産農業」双方ともに特定技能1号へ移行することができます。 そうすると、技能実習での3年と特定技能1号での5年、通算8年間、日本で農業に従事できることとなります。
特定技能 在留資格
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9.5 海外から農業従事者を特定技能ビザで招聘する
特定技能ビザが導入された直後の数年間は、農業技能実習生からの移行組が多くを占めるとみられていますが、その後、少しずつ海外から直接労働者を招聘することも行われるようになるでしょう。
この場合は、来日の前提として本国で特定技能試験に合格しなければなりませんが、政府は現在7か国でこの試験を行なう段取りをしています。その7か国とは、中国、ベトナム、フィリピン、インドネシア、タイ、カンボジア、ミャンマーです。特定技能1号は本来は技能実習とは関係のない就労ビザですから、本来労働者の国籍は問わないのですが、特定技能試験が当初この7か国でしか行われないということになると、海外から招へいする場合は事実上はこの7か国からの受入れが中心となるでしょう。
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9.6 採用時期をずらすことで労働力を継続的に確保する
農業は特定技能2号の対象業種ではないことから、5年後には必ず労働者が帰国します。それを見込んで時期をずらして複数名を雇用することで、継続的に労働力を確保することができます。
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10.1. 概要
建設分野のトンネル推進工、土工、電気通信、鉄筋継手の4分野については、技能実習2号移行対象職種ではありませんが、特定技能1号での受け入れが可能となります。これは、国際協力に基づいて技術移転が必要な分野(技能実習の対象)と日本で深刻な人手不足が生じている分野(特定技能の対象)が完全に一致しているわけではないことを意味しています。
10.2. 海外からの直接招聘による特定技能ビザの活用
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トンネル推進工、土工、電気通信、鉄筋継手の4分野について海外から建設労働者を直接招へいするためには、その労働者が特定技能試験に合格をする必要があります。政府は、建設分野の技能実習生の受入実績をみながら、この試験の実施国を選定する予定です。そうすると、就労ビザである特定技能ビザは、理論的には労働者の国籍を問わないはずですが、事実上は、10か国に満たない試験実施国から招聘することになる可能性があります。
12.1. 総説
2019年4月から、入管法が改正され人手不足が深刻な外食産業においても外国人の就労が解禁される予定です。これまでも多くの留学生が週28時間の制限の下に外食産業で働いてきたところですが、アルバイトではなく、フルタイムの雇用が可能になります。それを可能にするのが、あたらしい在留資格「特定技能1号」です。
在留資格「特定技能1号」は、日本での就労目的の滞在が通算5年に限定されています。したがって他の就労ビザのように、外国人を長期にわたって例えば定年まで雇用するようなことはできません。
もし今後、外食産業が在留資格「特定技能2号」の対象になれば、2号は滞在に期限がありませんから、同じ外国人を長期にわたり雇用することができるようになりますが、現在のところ2号の対象は建設業と造船業の二業種にとどまる予定で、外食産業は含まれていません。
また外食産業はごく一部(医療福祉給食)を除いて技能実習制度の対象とされておらず、さらに医療福祉給食での受け入れもまだ始まっていないため、他の業種のように技能実習との使い分けを考える必要もなく、特定技能1号をどのように活用するかが検討の対象となります。
特定技能ビザ
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12.2. 大規模な飲食チェーンにおける特定技能ビザの活用方法
大規模な飲食チェーンの場合、国内の留学生のアルバイト組を卒業後にフルタイム雇用に切り替えることに加えて、海外からの直接大量採用も選択肢として検討されています。すでにアルファサポート行政書士事務所にも、いくつかの飲食チェーン様からご依頼についてのご相談があります。海外からの招聘は国内アルバイト組からの切り替えよりもハードルが高くなりますが、これは日本語能力テストが含まれる特定技能試験の合格者でなければ特定技能1号で採用することができないからです。日本語ができる人を探すか、又は自社で日本語を教育するなどして試験に合格させてから招聘することとなります。
特定技能1号では、5年の雇用期間が満了すると、その外国人を引き続き雇用する手段はありませんので、帰国していただくこととなります。そこで図2のように、1期生を受け入れた翌年に2期生を受け入れることで、途切れることなく外国人従業員を補充することが各企業内で検討されています。
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12.3. 小規模な飲食店における特定技能ビザの活用方法
小規模な飲食店の場合、海外から外国人従業員を招聘することはあまり現実的ではないかもしれません。しかしながら、すでにアルバイトとして働いてくれている外国人留学生を特定技能1号でフルタイム雇用に切り替えることは今後多くみられるようになり、アルファサポート行政書士事務所にもすでにご依頼について問い合わせを頂戴しています。留学ビザから特定技能1号ビザへの変更は、日本語能力の確認を含む特定技能試験に合格しなければ許されませんが、留学生であればN4レベルの日本語能力はすでに有していることが多く、企業の負担は少ないでしょう。
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特定技能1号ビザは通算5年を超えて雇用することができませんので、大規模な飲食チェーンのように1期生、2期生という大量採用は行わないとしても、Aさんを雇用した翌年にBさんを雇用するというように個人単位で採用の時期をずらすことが検討されています。
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12.4. 特定活動ビザ申請における外食産業の特殊性
外食産業は他の業種に比べて法人化率が低い傾向にあります。大規模な飲食店チェーンであれば法人化されていますが、個人事業主の飲食店も多数あります。特定技能に限らず、就労ビザの申請は、大規模な法人であればあるほど申請に有利であることを念頭に行動する必要があります。個人事業主よりも中小企業の方が、そして中小企業よりも大企業の方が、特定技能ビザが許可されやすいので、中小零細企業や個人事業主が申請をする場合には、慎重には慎重を重ねる必要があります。
11.1 深刻な宿泊業における人手不足
総務省統計局「労働力調査」によれば、宿泊・飲食サービス業の就業者数は、2002年が396万人、その15年後の2017年が393万人とほぼ横ばいの状況です。
一方、観光庁「宿泊旅行統計調査」によると、2012年には4億3950万人泊であった延べ宿泊者数は、2016年には4億9250万人泊と、5300万人泊も増加しています。
もちろん宿泊業界の人手不足は全業界の中でも突出して高い離職率(30%)など他の要因も影響していますが、就業者が横ばいであるのに仕事の総量がどんどん増えている状況が大きな要因となっていることに疑いはありません。
日銀の「雇用人員判断指数」によれば、2017年に全産業の中で最も人手不足であった業界は「宿泊・飲食サービス業」となっています。ここで「雇用人員判断指数」とは、企業の雇用人員の過不足を示す数値であり、日銀短観において雇用人員が「過剰」と答えた企業の割合から「不足」とした企業の割合を差し引いたものをいいます。マイナスの値が大きければ大きいほど人手不足であることを示しています。
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11.2 特定技能2号が認められていない宿泊業
宿泊業は、特定技能1号の対象となりましたが、特定技能1号は日本での就労が通算5年に限定されています。したがって、他の就労ビザのように、外国人を長期にわたって例えば定年まで雇用するようなことはできませんので、外国人労働者がどんなに優秀であっても、定年まで勤めてもらうことはできません。
もし今後、宿泊業が在留資格「特定技能2号」の対象になれば、2号は滞在に期限がありませんから、同じ外国人を長期にわたり雇用することもできますが、現在のところ2号の対象は建設業と造船業の二業種にとどまる予定で、宿泊業は含まれていません。
11.3 就労ビザとしての特定技能を申請する際の宿泊業特有の事情
技能実習ビザは各ホテル・旅館ではなく事業協同組合が入国管理局に対し申請しますが、特定技能ビザは各ホテル・旅館が個別に入国管理局に申請をすることとなります。この場合、技能実習ビザにおいては事業協同組合の財務諸表の中身が問われるのに対して、特定技能ビザの場合は、各ホテル・旅館の経営状況が審査対象となります。したがって、小規模のホテルや旅館さんでは、入国管理局の審査に耐えられないケースがあるかもしれません。
特定技能ビザに限らず一般に、就労ビザは個人事業主よりも法人の方が、中小企業よりも大企業のほうが審査は通りやすいので、比較的慎重な申請が求められる業界となるでしょう。
11.4 技能実習(宿泊)から特定技能ビザへの移行
2018年11月現在、宿泊業は技能実習の対象ではありませんでしたが、改正入管法の施行と共に、技能実習2号の対象職種に指定される可能性があります。もし宿泊の技能実習が実現すると、技能実習ビザから特定技能1号へ移行することができるようになります。 そうすると、技能実習での3年と特定技能1号での5年、通算8年間、日本で宿泊業に従事できることとなります。
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11.5. 海外からホテル・旅館従事者を特定技能ビザで招聘する
特定技能ビザが導入された直後の数年間は、宿泊の技能実習生は存在しませんから、海外から直接従業者を招聘することが行われるようになるでしょう。
この場合は、来日の前提として本国で特定技能試験に合格しなければなりません。特定技能1号は本来は技能実習とは関係のない就労ビザですから、本来労働者の国籍は問わないのですが、(農業の試験が7か国で行われるのと同様に)宿泊業の特定技能試験もごく限られた国でしか行われないということになると、世界のあらゆる国籍のかたと自由に雇用契約を結んで招聘することが難しくなる可能性があります。
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11.6. 採用時期をずらすことで労働力を継続的に確保する
宿泊業は特定技能2号の対象業種ではないことから、5年後には必ず従業者が帰国します。それを見込んで時期をずらして複数名を雇用することで、継続的に労働力を確保することができます。
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11.7 在留資格「特定活動(インターンシップ)」から在留資格「特定技能」へ
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宿泊業界ではこれまで技能実習の対象職種として認められてこなかった経緯もあり、在留資格「特定活動」のインターンシップ制度を用いて、海外から大学生を受け入れることを試みてきました。しかしながら、インターンシップである以上、招聘するのは「学生」に限られ、就業体験が学業の一環でなければならず、在留期間は1年が限度であり、所属大学において日本での体験が正式に「単位」として認められることが必要です。
今後、特定技能1号で通算5年間の就労が正面から認められるようになれば、学生を労働力として期待するインターンシップは淘汰され、純粋なインターンシップのみが残るものと考えられています。 学生を労働力として期待していたインターンシップは、順次、特定技能1号に置き換わっていくでしょう。